「手術で1ヶ月休むことになったけど、上司に傷病手当金はもらわない方がいいって言われた」「傷病手当金と有給休暇と比べたらどっちが得なのかわからない」そうやって頭を抱えていませんか?
傷病手当金も有給休暇も、どちらも仕事を休んだ期間の収入を助けてくれる制度です。病気やケガで休む場合そのどちらかを選ばなければなりませんが、どちらを選んだほうが得なのかは詳しい方でないとわかりづらいもの。
この記事では、傷病手当金をもらわない方がいいと主張する人の背景と、実際に傷病手当金で生活した私が感じたメリットとデメリットを紹介します。
私の体験を交えて書いていきますので、ぜひ最後までご覧ください。
ある方の例。この方には有給休暇の使用をおすすめしました
先日、当サイトの公式LINEからご相談をいただきました。端的にまとめると、こんな状況の方です。
最も大きな理由は「毎年消滅している」事実と、使ったあとに残る日数。10日程度残れば十分ですし、この手術で有給休暇を使えば、これから先何年もの間、有給の消滅を避けられるようになります。
それに、実際の収入は傷病手当金よりも有給休暇の方が多く、支給されるタイミングも有給休暇の方が早いです。
傷病手当金のいいところは「休んでも、有給休暇を減らさずにお金がもらえる」ところ。傷病手当金を使っても、有給休暇が消滅してしまうのなら意味がありません。
手術のほかに有給休暇をまとめて10日以上使う予定があるなら、有給休暇を温存するのも良いでしょう。消滅する心配もありません。しかしそうではなく消滅するくらいなら、思い切って使ってしまった方が健全ですし、お得です。
もらわない方がいいのはどっち?有給休暇と傷病手当金の比較
有給休暇と傷病手当金は、どちらも仕事を休んでお金をもらう制度です。
しかし、内容にはかなり差があります。表にまとめましたのでご覧ください。
有給休暇 | 傷病手当金 | |
目的 | 労働者が休みたい日に自由に使える休暇 | 労働者が病気やケガで働けない時の収入の補填 |
どこからお金がもらえるか | 勤めている会社 | 健康保険組合 |
いつお金がもらえるか | 普段の給料と同じ | 申請後2週間程度 普段の給料よりかなり遅れる |
休んだ日数全てもらえるかどうか | 休んだ初日からもらえる | 待期期間があり、最初の3日間は 支給されない |
土日祝日の扱い | 元々休日なので、関係ない | 休日の分も休んだ1日にカウント される |
もらえる金額 | 基本給全額もらえる | 基本給の6〜7割程度 |
休める最大日数 | 有給残日数が上限 通常最大40日 | 通算18ヶ月(540日)まで |
その他 | 通常の給料と同じように 税金がかかる | 通常の給料と違い、所得に加算 されないので翌年の税金が下がる |
これだけではまだピンとこない方が多いと思いますので、次で具体的な例を出して比較します。
有給休暇で休んだ場合と傷病手当金で休んだ場合の収入額の比較
ここでは、いくつか条件を仮定してもらえる金額を比較してみます。モデルとなる方の条件はこんな感じです。
1週間の平日を5日、1ヶ月は30日で平日を20日として、それぞれ有給休暇と傷病手当金で休んだときの得られる収入を計算します。
前提知識ですが、このケースで有給休暇は1日10,000円、傷病手当金は1日4,444円です。1日あたりで見るとかなり少ないように見えますが、傷病手当金は土日祝日もカウントされますので、最終的に6〜7割に収まります。
なお、傷病手当金の支給金額は「標準報酬月額」を基準に計算されます。あなたの標準報酬月額を知りたい方はこちらへ。
では、早速、計算していきましょう。
有給休暇を使用 | 傷病手当金(初回) | 傷病手当金(2回目以降) | |
1週間休んだ時 | 50,000円 10,000円×5日(平日のみ) | 17,776円 4,444円×4日(休日含む7日-待期期間3日) | 31,108円 4,444円×7日(休日含む7日) |
1ヶ月休んだ時 | 200,000円 10,000円×20日(平日のみ) | 119,998円 4,444円×27日(休日含む30日-待期期間3日) | 133,320円 4,444円×30日(休日含む30日) |
3ヶ月休んだ時 | 300,000円 10,000円×30日(有給使い切ったため2ヶ月目途中から無給) | 386,628円 4,444円×87日(休日含む90日-待期期間3日) | 399,960円 4,444円×90日(休日含む90日) |
休む日数が少なければ少ないほど有給休暇と傷病手当金の差額が大きく、日数が多くなると金額が逆転するのがわかると思います。
当然ですが、有給休暇は使った分だけなくなってしまいます。ある程度残さないと不安ですから、長期の休みには不向きですね。
傷病手当金をもらわない方がいい、有給休暇を使うべき方の例
1週間以内程度のお休みならば、有給休暇の方がお得です。特に、こんな方は有給休暇を使った方が良いでしょう。
私の感覚では、傷病手当金の条件を満たしていても、1週間を超えない休みでは有給休暇を使います。
なお、一定期間だけ有給休暇を使って、その後傷病手当金に切り替える方法もあります。このケースだと有給休暇で待期期間を過ごせるので賢い方法です。
こちらの記事が参考になりますが、そういった話では書いてありません。わからない場合は私までお問い合わせをください。
私が「傷病手当金はもらわない方がいい」と言われた話
傷病手当金はもらわない方がいいと主張する人がいます。本当にそうでしょうか。実は、私自身そう言われた経験があります。扁桃炎という病気にかかり1週間程度入院した後、当時勤めていた会社の社長からそう言われました。
そう言ってくれた時の社長は、いかにも私のことを思いやってくれているような雰囲気でした。しかし私が傷病手当金を選択すると、明らかに不機嫌になってしまいました。
収入が減るのは私なのに、なぜ不機嫌になるのでしょう。その社長は、私が傷病手当金を選択することでどんな不利益があるのでしょう。少し考えると答えは出ます。おそらく、有給休暇を消費させたかったのです。
ただし、私のケースでは確かに収入が激減しました。たった1週間の休養で、有給休暇が十分に残っているなら、有給休暇を使った方が良いです。何事も経験かなと思って傷病手当金を選択しましたが、あれは間違いだったと今なら思います。
傷病手当金をもらわない方がいいと主張する人たちの理屈
ここでは「傷病手当金をもらわない方がいいという主張」を並べます。あなたはこんなことを人から言われてはいませんか?
そう言ったのがもしもあなたの上司や同僚なら、彼らはあなたをうまく利用しようとしているだけかもしれません。
あなたが抜けたら仕事が増える、経営者からの評価は下がる。上司にとっていいことなんてひとつもありません。
あなたのことを思いやらず、自分のことしか考えない上司は必ず反対します。もし反対されたなら、その上司からできるだけ離れるように気をつけましょう。
しかし、あなたが「休みたい」と思う気持ちを解決する内容はここにありません。
あまり真正面から受け止めず、「おかしなことを言うなぁ」くらいの温度で読んでみてください。
主張1「有給の方がたくさんお金がもらえる」
これは確かに間違っていません。会社が与えてくれている「年次有給休暇」を使ったなら、その休んだ日数分の給料は全額支払われます。
問題は「年次有給休暇」は最大で40日しかないこと。使い切ってしまうと風邪ですら有給を使えなくなってしまいます。
対して「傷病手当金」。受け取っている給料の約3分の2(66%)しか受け取れませんが、最大で18ヶ月(540日)受給できます。
せっかく傷病手当金を使えば別の時に有給を使えるのに、もったいないと思いませんか?
主張2「書類のやり取りが面倒」
確かに、書類のやり取りは面倒です。有給休暇なら会社の総務が処理すればそれで終わりですが、傷病手当金の場合は医師と保健協会と会社を巻き込んで手続きしなければなりません。
実際に休む本人だけでなく、会社にとっても業務が少し増えてしまいます。
総務担当の社員がいる会社はいいですが、そんな社員がいない小さな会社は経営者がその業務を担当するハメになります。その手続きを全く知らない方ならそれを勉強するところから始めなければならないケースも。
とはいえそんなことは知りません。傷病手当金の手続きは会社として当然の業務ですから、きちんとやっていただきましょう。
主張3「一度受給してしまうと二度と受給できなくなる」
二度と受給できなくなるのに、そんな小さな休養で使うのはもったいないぞ。という主張。
これ実は、かつては正しかったのです。令和4年1月1日に健康保険法が改正される以前は確かにそういう要素がありました。
かつては「同じ傷病で受給できるのは、支給開始日から起算して1年6か月まで」というルールでした。つまり、私が発症した扁桃炎で1週間受給した後、2年後に同じ扁桃炎で受給しようとしても受給できなかったのです。
改正後の現在は「支給開始日から通算して1年6か月」になりました。1週間受給した後、残りの受給枠は1年5ヶ月と3週間くらい残ります。二度と受給できないなんてルールは無くなったのです。
【もらわない方がいいと思う?】傷病手当金をもらうデメリット3つ
先の主張と重なる部分がありますが、傷病手当金をもらうデメリットです。
確かにデメリットなんですが、考えようによってはメリットになり得るので、しっかり読んでみてください。
書類は面倒なうえ、拒否される可能性もある
傷病手当金の給付金は、以下のような順序で給付されます。
2で医師が、3で会社が、4であなたが申請書を書かねばなりません。これで書類に不備があれば突き返されて書き直しですから、きちんと間違いなく書かなければ給付はどんどん遅れていきます。
拒否されるケースとは、あなたが給料をもらっていたり、実は副業で働いていたりするケース。ほとんどの方には関係がないはずですが、頭の片隅には置いておいてください。
確かに収入が減るし、給付開始も遅い
収入は確かに減ります。額面でざっと3分の2になってしまうので、当面の生活は苦しいものになるでしょう。特に最初の1〜2ヶ月。ほとんど収入ゼロと言っても過言ではありません。私も実際にゼロでした。
一つ前の見出しの「傷病手当金が給付されるまでの流れ」の中で、2の「ある程度の期間」とだいたい1ヶ月です(休養した期間が1ヶ月未満の時はその期間)。5の「一定期間」とは、概ね2週間〜1ヶ月程度。
つまり、あなたが休み始めてから実際に給付金が振り込まれるまで、1ヶ月半〜最長で2ヶ月程度かかってしまうのです。
一度支給が始まると申請ごとに審査されるので、概ね毎月支給されるようになります。しかし最初の2ヶ月は、基本的に収入がありません。逆に復職後は、2ヶ月程度給料と給付金の両方が入金されるようになります。
「国からお金をもらう」という罪悪感
「今、国全体が大変な時期なのに、自分のためにお金をもらうなんて申し訳ない」なんてことを考えていませんか。
そんなことを気にする必要はありません。なぜなら、あなたが受け取る手当金はあなたが支払ってきた社会保険料で賄われるからです。
だから、大丈夫。遠慮せずに受け取って、ゆっくりと長い休みを満喫してください。
【もらわない方がいいと思う?】傷病手当金をもらうメリット3つ
傷病手当の最も大きなメリットは働かずともお金がもらえることですが、そのおかげでお金以上の大きなものを得ることができます。
ここからは傷病手当金を受け取ることで得られるメリットを挙げていきます。
休養中、やりたいことに集中できる
「退院後もまだ働けない」と医師に判断してもらえると、自宅で有り余る時間を過ごす余裕が生まれます。
もちろん治療が最優先ですが、今までやりたくてもできなかったことを全力で楽しむ時間ができるのもまた事実です。
お金のことは手当に任せて、今しかできないことを今のうちに全部やってしまいましょう。
働かずともお金がもらえるし、有給も減らない
傷病手当金の最も大きな目的、休養中の収入の補償も、大きなメリットです。
確かに収入は減りますし、復職できるかどうかの不安とも毎日戦っているでしょう。でも、働かずとも収入を得られるのは本当に大きなメリットです。
もし復職したとしても、有給休暇が残っています。これは有給休暇を全て使って休職すると得られない安心感です。
もし休職中に退職する決断をしたなら、残った有給休暇はそのまま退職までに消化されます。全く無駄になりません。
将来の選択肢が増える
休職しながら傷病手当を受給していると、忙しく働いていた時は選べなかった、たくさんの選択肢が生まれてきます。
この選択肢は、今すぐに決めなくてもいいんです。休職して毎日をゆっくり過ごしながら、時間をかけて方向性を決めていけばいいんです。
私は勉強を選択しました。元の職場・業界には戻りたくなかったのです。そういう将来を選ぶことができたのも、傷病手当金のおかげです。
辞める前提で、退職後にもらうこともできる
ここまでで何度か触れてきましたが、傷病手当金は退職してからも受け取ることができます。
退職してから手続きを始めたのでは少し遅いのですが、在職中に休職するような状況ならば問題なく退職後も受給できます。
細かい手順などはこちらの記事で紹介していますので、一度ご覧になってください。
傷病手当金でゆっくりと仕事を休んでしまおう
「傷病手当金なんてもらわない方がいいよ」なんて主張する人。彼らの意図はご理解いただけましたでしょうか。彼らはあなたのことを思って言ってるのではありません。彼ら自身の保身のために言ってるだけなのです。
あなた自身の「もう休みたい」と言う心の声が聞こえているうちに、一日も早く手続きを始めて休んでしまいましょう。
手遅れになる前に。自分を追い込んでしまう前に。一緒にお休みしましょうよ。
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